梅雨入り前のこの季節、『曼殊院』はおすすめです。

小書院の前に座り、縁側の欄干に軽く肘を預けて屋形船の旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。

建物は数寄屋造りで、天井と床と欄干は船のような形に作られています。

まばゆい新緑と白砂の庭の正面(南東奥)には滝石組が組まれ、水分(みくまり)石で二筋に分かれる水の流れを砂で表現しています。

亀島、鶴島を経て大書院の前をとうとうと流れる川は、5月、庭の西端に真っ紅に染まる霧島ツツジの先にある西国浄土へ悠久の旅を夢想することができたのでした。

過去形で記したのは、昨年、百五十年ぶりに悲願であった宸殿が目にも鮮やかなヒノキ材で復元され、庭一面に大海原が広がる様を実際に目にすることができるようになったからです。

盲亀浮木(もうきふぼく)の庭』と名付けられたこの大海原は奥に配された石に意味があります。

海には百年に一度息継ぎのために海面に頭を出す盲目の亀が住んでいました。

百年目に顔を出したところ、偶然にも風に流されてきた流木の節穴に頭がすっぽりとはまってしまい人間に生まてきたというのです。

仏の教えに出会うことはこれほど難しいことであるという意味がこめられていると言われています。

桂離宮とまったく同じ建材で作られたといわれる曼殊院は、庫裏の大きさだけでもどれだけ栄華を極めたかが忍ばれます。

また、国宝・寺宝も超一流で見ごたえがあるものばかりなのです。

八条天皇の皇子として生まれ、門跡となった良尚法親王の目指した侘び寂の世界観が色濃く残るこれまでの建物に真新しい宸殿が付け加わったさまは、まさに儚く移ろうこの世と極楽の両方が同時に存在するようで見ごたえが増した気がします。

ヴェーダの知識では、阿吽の呼吸の阿吽(あうん)は生命の始めと終わりを意味すると言われています。

曼殊院はリク・ヴェーダの冒頭句に続くを表す水分石から生命の至福の成就までの壮大な流れがが表されているようで、見ごたえのあるお寺です。