ジョージ・エリスが、哲学の学位をとって卒業した直後のことだった。サクラメント・シティ大学の美術部の学部長から電話がかかってきた。「あなたの申込書を読みました」と彼は言った。「フォルサム刑務所で哲学を教える人を探しているのですが、まだ見つからないのです。あなたが我々の最後の希望なのですが……」

ジョージは、どうしても仕事が必要だったので、アメリカで最も警備の厳しいフォルサム刑務所で教えることに同意した。そのとき彼は気づいていなかったが、この決断は彼の人生を劇的に変え、その後の25年間にわたって数千人もの人生に影響を与えた一連の出来事の第一歩であった。

それは何だったかというと、ジョージは、フォルサム刑務所の塀の中に、彼が習得していたもう一つの技術を持ち込んだのだ。実は彼は、超越瞑想の教師であった。1970年に、コロラドのエステスパークで開催されたアメリカで最初のTM教師養成コースに参加していた。

ある日、パット・コラムという名前の囚人が、「なぜ君は、刑務所の中で教えているのに、そんなに幸せそうで落ち着いているのか?」とジョージに尋ねた。ジョージが超越瞑想を行っていることを話すと、パットは自分も瞑想したいと言った。そこで、ジョージは、自分の労働時間外に刑務所に行って、パットに超越瞑想を教えた。最初の瞑想の後、彼はジョージに「13年半ぶりに、僕は初めてリラックスと心の平安を感じた」と語った。

すぐに他の囚人達も、パット・コラムの肯定的な変化に気づいて、超越瞑想を学びたいと言い始めた。ジョージは彼らにも瞑想を教えた。それが切っ掛けで、彼の旅の次の段階が始まった。彼は、カリフォルニア、バーモント、中南米、ヨーロッパ、アジアの刑務所をまわって、超越瞑想を教え続けることになった。そして、1979年に、ジョージの最初の本『フォルサム刑務所の内側:超越瞑想とTMシディプログラム』が出版された。

内側に静寂を見いだす

彼の二冊目の本『静寂の交響曲:啓発された視野』を出版しようという考えは、1986年にマハリシとミーティングを行った後に思いつき、2007年にその考えが再び浮かんできた。そしてジョージは、2012年にその本を完成させた。この本は現在、英語とスペイン語で出版され、10カ国以上の言語で翻訳が進められている。

『静寂の交響曲』は、526ページにもおよぶインタビュー、雑誌や新聞の記事、個人的な物語の名文集である。そこには、グラミー賞受賞経験のある音楽家ポール・ホーン、実業家であり慈善家であるスーザン・ゴア、科学者デヴィッド・オーム・ジョンソン、哲学の教授ジョナサン・シャー、弁護士カンディス・マーティンのインタビューが含まれている。そして、個人的な物語は、マハリシの知識と超越瞑想の実践に影響を受けた人々によって書かれたものだ。

題名が示しているように、私たち一人一人の内側に静寂があり、誰もがその静寂を手にすることができる。それがこの本の基本的なメッセージだ。その静寂は、私たちのすべての考え、行動、達成の源であり、私たちが心の最も静かなレベルで、その静寂を見つけ出すのを待っている。

私たちに必要なのは、毎日、その内なる静寂に触れるための方法だけである。それによって、内側からその静寂を引き出して、ダイナミックに活動している最中にも、その内なる静寂を楽しめるようになる。

静寂の交響曲への一人一人の寄稿者は、内なる超越意識の静寂を体験し、自らの体験を独自の視点で私たちに示してくれている。そうした物語は、私たち自身の内なる静寂を発見する刺激となり、毎日、充実した人生を生きるための励みになるだろう。

ジョージは、この本の終わりでこう述べている。

「この本は、超越意識がすべての人の内側にあることを強調しています。枠のない純粋意識の内なる静寂が、常に表に現れてきて、私たちの生命をやさしく包んでいます。その静寂の体験はささやきます。その内側にある美しい価値を体験することは、私たちの生まれながらの権利であると。静寂の交響曲は、洞察やひらめきを与え、自分が誰なのかを思い出させてくれます。啓発へと向かう生命の自然な進化を促してくれるのです。」

原文・Rolf Erickson