いったい彼の創造性はどこからくるのか? 映画監督のデヴィッド・リンチ監督の作品を体感した人は、そう思うことだろう。数々の賞によって高い評価を得ている彼の創造性は、映画に留まらず、絵画、写真、アニメ、立体作品、さらに音楽へと拡大している。

リンチ監督は言う。創造性をつかみとるために、心の内深くに潜るのだと。彼の著書「大きな魚をつかまえよう」のなかで、彼は創造性(アイディア)を魚に例え、大きな魚ほど海の深みにいて、それをつかまえるために内深くに飛び込むのだ、と話している。

その飛び込むための技術が、彼が39年前から実践している瞑想法──超越瞑想だと言う。心の内深くまで飛び込み、海の底にある深い静寂と共に、至福、エネルギー、創造性が彼の心を満たし、それが創作活動を支えているのだ。

この彼の創造性の秘密を探るために、ここで彼の心の内深へと潜ってみよう。

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──私はあなたの映画のファンですが、あなたが超越瞑想に関心があるとは知りませんでした。超越瞑想とは何でしょうか?

リンチ 超越瞑想とは、どんな人でも「内側に潜って」、心の精妙なレベルを体験できるようにするテクニックです。超越して、想念の源で、内側の純粋意識の大海を体験します。超越瞑想は、その純粋意識の大海にあなたを連れていく乗り物です。規則的に実践すれば、純粋意識の大海が活性化され、それが広がります。それは成長を始めます。

──では、意識とはなんでしょうか?

リンチ 意識とは「自己」です。それは、気づきであり、目覚めであり、内側の幸福です。それは、創造性、知性、愛、調和、コヒーレンス、パワー、エネルギーの大海であり、それはすべての人間の内側にあるものなので、だれもがその大海に潜ることができます。

──あなたは一日にどのくらい瞑想していますか?

リンチ 朝に一回、夕方に一回瞑想し、それから仕事に取りかかります。その結果、「行動する」ことの喜びが、言葉では言い表せないほど大きくなります。意識の容れ物が拡大するにつれて、理解力は高まります。創造性、問題解決力、直観が成長します。そして、その副産物として、否定的なことが遠のいていきます。そのような収支決算がはっきりしているので、映画制作者にとっても、だれにとっても、それは銀行の預金のようなものです。

──TMを始めて最初に気づいた効果は何でしたか?

リンチ 私はTMを始めたばかりの頃、とても怒りっぽかったのです。その怒りを最初の妻によくぶつけていました。瞑想を始めて2週間経ったとき、妻が私のそばに来て、「どうなっているの?」と言いました。私はしばらく黙っていました。彼女が口にしていた色々な事柄のうちの、どのことを言っているのかわからなかったからです。「なにが?」と私は聞き返しました。「怒りよ。それはどこに行ってしまったの?」と彼女が答えました。

怒り、憂鬱、悲しみ、恐れ、不安、ストレス。私たちを傷つける、そのような感情がすべて薄らいでいました。怒りは一晩中湧き起こらず、かわりに至福意識がありました。至福とは、生命の最も甘美なネクターのようなものです。内側に飛び込んだときに跳ね上がるしぶきが至福です。それは内側の幸福であり、それが成長していきます。

──あなたは最初からずっと瞑想に関心があったのですか?

リンチ いいえ。実は私は、瞑想など時間の無駄だと思っていました。瞑想について知ろうとさえ思いませんでした。しかし突然、私は瞑想に興味を持つようになりました。「悟り」という言葉を聞き、そして、「この瞑想というものは、それを解き明かすための手段なのかもしれない」と考えるようになったのです。私は瞑想がどういうものか知りませんでしたし、疑いも抱いていました。しかし、それをちょっと知ってみたくなったのです。

そして、私はそのテクニックを教えている教師に会いました。彼女は私にマントラを与えてくれました。マントラとは、音、バイブレーション、想念です。瞑想するときには、マントラの意味を考えることはありません。彼女は私を小さくて静かな部屋に連れていき、私に最初の瞑想をさせました。私は座って、目を閉じて、そのマントラを使い始めました。すると、私はエレベーターの中にいて、ケーブルが切られたような感覚になりました。ドーン!と、至福の中に入っていました。それは、まさに私が望んでいた体験でした。瞑想は「しなければならない」というものではありません。私たちは毎日瞑想したくなるのです。瞑想によって全潜在力が開花し、悟りへと成長するのですから、したくない理由があるでしょうか?

──超越瞑想は、成功している映画監督、画家、写真家としてのあなたの創造性にどのような影響を与えましたか?

リンチ 二つの面で影響がありました。第一に、アイデアをとらえる能力が高まったことです。意識の容れ物が拡大すると、より深いレベルでアイデアをとらえることができるように思います。深いレベルでとらえるほど、そのアイデアは大きなものになります。

それは釣りのようなものです。小さな魚は水面の近くを泳ぎ、大きな魚はもっと深いところで泳いでいます。私は大きなアイデアをとらえたいし、そのようなアイデアを理解できるようになりたいのです。そのためには、直観を成長させて、私が抱えるどのような問題も解決できるような直観を養いたいのです。

第二に、不安や恐れや怒りや緊張が、もう以前のような力を持たなくなりました。悲しみに沈むことはありますが、悲しみにとらわれなくなります。怒ることもありますが、怒りにとらわれなくなります。人生がまったく楽しいものになっています。このことが、創造的な活動にとって最大の恩恵になっています。なぜなら、憂鬱になっていると、ベッドから出ることさえできなくなりますから。

──あなたにとって最も厄介な問題の根本原因を発見したとしましょう。それがわかったとき、あなたはその情報をどのように扱いますか?

リンチ そうですね。原因を発見したというだけで、問題がどこかへ消えてしまうわけではありません。問題を解決したいと願い、問題について話しあうことは、問題の解決にはならないと私は思います。それは、喉が渇いている人にコップを与えるようなものです。その人には水が必要なのです。水を想像しただけでは、喉の渇きは癒されません。願っても、コップに水が満たされることはありません。あなたはその人に水を与えなければなりません。それから、何が起こるか見てください。喉の渇きは癒されます。

私たちが飛び込むことのできる場所がここにあります。問題の根本原因を知っているかどうかに関係なく、その問題を解消することができます。あなたは問題で立ち往生する必要はありません。ある大きさの意識だけで生きていかなくてもよいのです。意識は拡大することができます。意識が拡大するにつれて、とてもたくさんの良いことがやってきます。

──こうしたことにまったく懐疑的な人々に対して、あなたはどのように言いますか?

リンチ 懐疑的な態度はとてもよいことです。この世にはペテン師がゴマンといます。あなたは懐疑的であるべきです。しかし、何かについて調べ、それが良いものだと分かった後は、それに対して懐疑的でいるべきではありません。懐疑主義によってあなたから良いものを遠ざけるべきではありません。質問をし、それをよく調べ、研究結果を参照し、それを実践してきた人たちと話をしてください。

──ハリウッドのスケジュールでは毎日16時間働くと聞いています。「瞑想のための休憩をとらなければならない」とあなたが言ったら、他の人々は怒りませんか?

リンチ 私は39年間瞑想を続けてきましたが、1回も瞑想を欠かしたことがありません。瞑想はどこででもできます。空港でもできますし、職場でもできます。私は、午前中は朝食前、夜は夕食前に瞑想をしています。それがベストの時間です。

──あなたは、瞑想をしたいと願っているアメリカの学生たちに超越瞑想を提供するために、その資金調達を目的とする財団を設立しましたね。

リンチ すべての人が気づいていると思いますが、教育は窮地に陥っています。だれもがその状況を変えたいと願っていますが、どうすればいいのかわからず、事態はますます悪化しています。私立学校がどんどん設立されていますが、それらの学校でさえ、子供たちに十分な教育を行っていません。学校では、あらゆる種類のストレスが高まり続け、私たちが皆知っているように多くの問題を抱えています。

私はアイオワにあるマハリシ経営大学とマハリシ・スクールを訪れ、ある劇を見ました。雨の降る寒い夜だったのを憶えています。それはとてもちっぽけな劇場でしたが、客席は満席でした。私は座席に着いて、「今夜はとても退屈な夜になりそうだ」と考えていました。私は中央の座席に座っていたので、途中で退席できそうにもありません。高校生の劇を観ることになっていたのです。しかし、その劇が始まってから、おそらくほんの15秒くらいで、退屈な夜にはならないということを悟りました。そのあとは観れば観るほど引き込まれていきました。私はステージの上に信じられないものを見ました。演じていた生徒たちがまさに放っていた知性と意識の輝きを見たのです。その生徒たちは俳優でもないのに、信じがたいほど魅力的でした。

その劇はとても創造的で、演じているすべての人がとても素晴らしかったので、私はまったく引きつけられ、「いったいどういうことだろう?」とつぶやきました。そのような劇はこれまで観たことがありませんでした。後になって私はこう考えました。「すべての俳優は瞑想を始めなければならない」。さらに、こう考えました。「すべての学生は瞑想を始めなければならない」。

──あなたの財団は現在、どのような活動をしていますか?

リンチ 私たちは資金を集め、全国のスラム地区の学校で意識に基づく教育プログラムを導入するために、その資金を使っています。そして現在は、瞑想を学びたいと願う大学生にも奨学金を提供しています。すべての人は、内側に意識の光をもった電球のようなものです。私たち自身の内側でこの意識の光を体験することによって、この光をもっと明るくすることができます。そうなれば、私たちは、いっそう明るくなったその光を楽しむことができ、さらに、その光を私たちの環境へ、世界へと放射することができるのです。ですから、私たちを支援してくださる方々を求めています。

──最後に何かコメントを

リンチ 私は映画をとても愛していますし、アイデアをとらえて表現することが大好きで、そして超越瞑想をするのが大好きです。私は統一の質を活性化することが大好きです。統一の質を活性化すれば、人生はどんどん素晴らしくなると思います。悟りははるか遠くにあるのかもしれませんが、光に向かって歩いているとき、一歩一歩足を運ぶごとに、なにもかもが明るくなっていきます。私の場合も、毎日、どんどん素晴らしくなっています。この世界で統一の質を活性化すれば、地上に平和がもたらされるでしょう。

原文・Enlightenment News