『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』の映画ですが、放映最終日に観に行ってきました。
京都の放映期間は三週間でしたが、九月二十三日の封切り前にも、TM京都センターで鑑賞させてもらいました。
でもやはり映画は映画館で観るに限りますね。快適な座席、飲み物用のホルダー。
やがて館内が次第に暗くなると、予告編につづき、本編が流れ始める。
これこそが映画館で映画を観る醍醐味ではないでしょうか。
五感からの情報のうち、視覚情報が八割と言われますが、暗さの中でスクリーンに映像が投影されることで、視覚はさらに際立ちます。
そして音響の良さと座席の触感、これですでに眼耳身の三つです。
先日、『トップガン・マーヴェリック』を観たのですが、前作にたがわず楽しめました。
最近は劇場そのものが進化し、シートが映像に合わせて上下左右に動き、戦闘機の細かな振動も再現します。
そしてスクリーンは、両サイドの壁面にも拡張され、ヨットのシーンなどでは、大海原の中に揉まれる船の動きと連動し、あろうことが本物の水まで噴き出して顔を濡らすのですから、びっくりします。
私はインド滞在の体験も五、六回ありますので、リシケシや階段状のガートでの沐浴シーンなどを見ると、そのまま滞在当時のインドにタイムスリップしてしまいます。
そして不思議なことに、映像を観ることで、匂いを伴った空気感までよみがえってくるのです。
おおよそ動物は太古の昔から、生きるために匂いで餌を探し、臭いで危険を避けてきたので、視覚より嗅覚が重要だったはずです。
そのためか、五感のうち、唯一嗅覚のみ、直接、脳に情報を伝えるそうです。
それでもなお、記憶と関連した嗅覚情報だけは、眼耳舌身と同じく、鼻から来る感覚も必ず脳の中枢である視床を経由し、情報の送受配信を行います。
人間の手指が手のひらで一つにまとめられているように、五感は奥で一つにつながっています。
ですから映像から匂いを再現することもでき、また、生まれつき目がご不自由の方は、音が色や形や触感として脳内で見えると、全盲の会員の方から聞いたことがあります。
私は南部はケララ以外、インド北部しか知りませんが、少なくともニューデリーからバナラシまでは、見渡す限り極微細な乾いた黄土色の大地がひろがり、郊外は牛糞とカマドをくべる煙の匂い。
街なかは2サイクル・エンジンオイルの焼ける匂いと排気ガス、人々の話声と喧騒、煙草の匂い、そして噛みタバコをペッペ、ペッペと道に吐き出す真っ赤な唾液の色彩。
儀式で使う花輪のオレンジ色。これこそが、まさに私にとってのインドそのものなのですが、それらがないまぜになって映像から35年前の記憶を再現させてくれます。
でも、ガンジス川を見下ろすリシケシのマハリシ・アシュラムは特別中の特別な場所だったと思います。
穏やかさと開放感、躍動を伴う静寂が、暑いインドにありながら、ポール・サルツマン監督の映像には極めて忠実にフィルムに残されていて貴重です。
次回は音の観点から、ザ・ビートルズの四人の内面に肉薄してみたいと思います。
悠央
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