日本アーユルヴェーダ学会研究総会 福岡大会

一般研究発表 2017年7月8日(土)

2011年日本の地震・津波災害における被災者支援

超越瞑想法によるストレス緩和

川井悠央(マハリシ総合教育研究所/京都)

吉村光信 黒川悦子 G-やまと(浦和)

野田隆行 ケンセイ・ヘルスケア・コーポレーション(仙台)

日根野浩史 直志会・袋田病院(ダイゴマチ)

田中康雄 医療法人丹誠会紫峰の森クリニック(筑波)

マイケル・C・ディルベック マハリシ経営大学(アイオワ州フェアフィールド)

①きょうは満月です。私はこの報告を、私どもの師であるマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーと吉村光信さんに感謝を込めて発表させていただきます。吉村さんは昨年お子様を残して他界されたのですが、私が36歳のとき、椎間板ヘルニアの治療でアーユル・ヴェーダの治療を約一年にわたり受けさせて頂いたことがあり、そのとき寄付を募って私をインドに送りだして下さった方で、お陰様で私自身アーユル・ヴェーダの貴重な体験をさせていただくことができたのです。また、2011年の東北大震災の折、私と同僚とで、ボランティア活動に入り、超越瞑想指導させていただきました。一年半の活動中に約250名の方が超越瞑想プログラムを始められ、そのうち前半の171名のデータを今回発表の論文としてまとめてくださったのも吉村さんであり、非常に感謝いたしております。

本研究は、自然災害後の生活に順応する過程にある個人に対する超越瞑想の治療介入の効果を本国で初めて検証したものです。目的は、震源に特に近かった2つの沿岸都市で、住民のストレスを超越瞑想プログラムにより緩和することを目指したプロジェクトの効果を検証するものであります。この研究は、この心身の状態が重度のストレスからの回復に繋がるとの仮説に基づいて進めました。

 

 

②その前に、マハリシ・アーユル・ヴェーダにつきまして説明させて頂きます。マハリシ・アーユル・ヴェーダの活動は1980年代初頭から始まりました。この時期インドの主なアーユル・ヴェーダ大学の学長級の方々を、首都ニューデリーにほど近いマハリシ・ナガールに集まっていただき、形骸化しつつあったアーユル・ヴェーダの知識を再体系化して世界中に広めようという運動が始まりました。そのときに非常に大きく貢献されたのがこの3人の先生方で、私どもは「三賢人」とお呼びしております。
写真の一番左の方はバルラジ・マハリシ先生。薬草学の大家で、インド厚生省の顧問をされておられました。7000種類以上の薬草を分別されたそうです。1985年は、人間界から苦しみがなくなるよう植物界全体が一致協力するという決議がなされた年と聞いております。

二番目の方がトリグナ先生で、インド・アーユル・ヴェーダ協会の会長を務められました。現在は100歳を超えるお年と思います。マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーの要請で世界中の主要国の厚生大臣にお会いされていらっしゃいます。日本にも来られました。経営コンサルタントであられた故船井幸雄先生とのアポのときのことです。トリグナ先生の背丈は180センチ以上ございまして、腰回りも1メートル50センチ以上あったと思われます。船井氏が「あなた、健康のことをお話ししているけれど、そんなに太っていて健康なんですか?」とお聞きになられました。トリグナ先生は「私は太っていません」と答えると、船井先生が「太っているじゃないですか」と。すると、ドーティーをバッとまくりあげまして、インドのヨーギーのようにお腹と背中がつくぐらいまで凹まして見せたのです。お相撲取りのようなお腹がですよ。つまり、お腹には脂肪ではなく氣が満ち満ちていたのですね。トリグナ先生のクリニックでは、午前中の3時間ほどの間に1人で300人~350人の脈を取り、ご子息が処方箋を次々と書いていきます。午後になると患者さんがラサヤナを受け取りに来られます。それが、本当によく治るんです。今は息子さんの代になりましたが、まだお元気に診ていらっしゃると思います。

3人目の先生はディヴェジ先生で、マハリシ先生の傍らに常に一緒にいらっしゃった方で、私は何をなさっている方なのかわからずに居たのですが、この先生は散逸したアーユルヴェーダの深遠な知識をすべて記録し後世に残そうとご尽力された方です。

一番右の先生は、ドクター・ラジュー先生です。私がインドに腰の治療で行かせていただきましたとき大変お世話になりました。マハリシ先生は6人の医師を私の担当医として付けてくださったのですが、別格の能力をお持ちでした。後年、マハリシのオランダ本部で行われましたアーユル・ヴェーダのコースの指導教官を担当して下さいました。脈診の実践も毎日ございました。あるとき、私と同僚の瞑想教師が自らの脈を診て、ラジュー先生に感じたままを発表しますと、その瞑想の教師本人ではなく、そのお父様の具合がどのように悪いかまで詳細に解説して下さり、皆で驚いたものです。また、1986年に大規模なアーユル・ヴェーダのコースがインドで開催されました。私の同僚教師の1人が妊娠しており、受胎二週間目なのに、二回診なおし、間違いないとおっしゃるのです。この時も皆で感動致しました。蓮村 誠先生の指導医でもいらっしゃいます。

ということで、この世から病気をなくそう、この世界から苦しみをなくそうというのがマハリシ・アーユル・ヴェーダ運動の基盤なのだと思っております。

 

 


③私自身のインドでの治療は、パトラポータリ・エラキジ(パトラポータラ・スウェーダ)が中心で、大体6ヵ月ぐらい連続で毎日のように治療して頂きました。そのお陰で現在もこのように仕事をできており、感謝するばかりです。

 

 

④西洋医学ですと、ドーシャが乱れる七段階のうち、「健康」をゼロ、「ドーシャの増加し始め」を一番目と致しますと、すでに「病気の発生段階である五番目」あたりで胃カメラをのんで診察しても、胃の中が少しびらんしていて赤らんでいる程度の診断の場合が多いわけです。ドーシャの乱れの「五番目」「六番目」はアーユル・ヴェーダでは「浄化法」の領域ですが、何と言いましても「一番目」から「四番目」までの「予防」がとても大切だと思います。さらに、元来、「意識」が物質である「身体」をつくっているわけですから、プラギャーン・アパラダ、つまり「知性の過ち」を修正する上で、病状や身体を取り扱うより重要なのは意識を取り扱う技術なのだと思うのであります。

 

 

⑤マハリシの組織の紹介をいたしますと、本部はオランダ・ブロードロップにございます。この建物は、建築学であるスタパティア・ヴェーダで建てられた建物で、自然素材だけを使い、ミリ単位まで自然法則と調和するように設計し建てられております。入口は真東に向けて太陽の影響を最大限取り入れるように作られます。この写真は日本本部でございます。この写真は、ドイツ・バドエムズにある州立のマハリシ・アーユル・ヴェーダ施設です。

 

 

⑥この写真はアメリカ北部、アイオワ州のフェアーフィールドにあるラージという名のマハリシ・アーユル・ヴェーダ施設です。世界で最高の保養所12施設中の一つに評価されております。

 

 

⑦インドのモディ首相は1990年に超越瞑想を学ばれました。昨年の第2回「国際ヨガの日」イベント当日は、スジャン・R・チノイ駐日インド大使によるインドを代表しての挨拶に加え、ヨガ、アーユルヴェーダ、超越瞑想(TM)を普及しているマハリシ総合教育研究所代表理事の鈴木 志津夫も祝辞を述べさせていただきました。

 

 

⑧私は超越瞑想とヴェーダの知識を指導させていただいている教師でございまして、これまで3,000名近い方に超越瞑想・TMと呼ばれる瞑想を指導させていただきました。ハーバード大学医学部のデータによりますと、超越瞑想実践者は、睡眠の2倍以上深い休息が短期間にとれるようになり、とても効率的にストレスが解消さることがわかっております。

 

 

 

2011年3月に東北大震災が発生し、私と妻は翌月の4月8日に仙台市に入りました。東北自動車も道路が大きく変形し、波打っているような状態で、やっと通行できるようになった頃です。被災者やボランティアの方々が、必死に泥かきなどしているときに、「瞑想しませんか?」と言っても誰も聞いてくれません。そんな中、宮城県内でヨガを指導されている先生方のご協力があり、生徒さんで被災された方々から、瞑想の指導をはじめることができました。

 

 

⑩実験参加者はA群、震災後3~5か月間に仙台市で106名。B群、震災後5か月~8か月間に石巻市で65名。計171名がTMを始められました。この地図で、石巻市のこの周辺は実に悲惨な状態が続いておりました。TM瞑想は個人指導を通してマンツーマンで指導されます。通常、個人指導は一時間ほどで終わるのですが、被災者の方々の中には、極度のストレスにより瞼を閉じるように言ってもそれができない、まして他人の前で無防備に目を閉じて座ること自体に対し大きな恐怖となるのか、座っていただくことも難しく、個人指導に2時間以上かかったりするケースもございました。それでもなんとかTMをご指導させていただきますと、その日のうちからグッスリ眠れるようになります。

あるヨガの先生は、人格ができた方で、もちろんお母様ともとても仲がよく、ケンカしたことなど一度もなかったような方が、今回の地震では喧嘩となり、「もうだめだ」と思っていたようです。

 

 

⑪ご存知のように、前頭前野の働きは強いストレスを受けると脳の他の部分との連絡が遮断され、判断力が著しく低減いたします。

 

 

⑫一方TM瞑想実践中には脳の全領域の脳波パターンが同期し、脳が統合することで協調的に機能するようになります。

 

 

⑬表1はグループと試行別合計兆候スコアです。仙台で最初にTMを学んだグループa106人、石巻で二番目にTMを学んだグループb65名、東京でTMを学んだ比較グループc326人、対照群としてTMを学んでいないグループd68人で比較しましたところ、事前調査の平均合計症状得点は、両被災地群が東京群より12.1%高く、TMを学んでいない東京の対照群より45.1%も高かったことがわかります。性別によるグループ化の有意な主効果は、群に関わらず、男性より女性の方が合計症状得点が高かったことを示しました。総得点平均は女性が32.10(標準偏差 = 12.19)、男性が27.07(標準偏差 = 11.54)でした。

 

 

⑭調査はこのような自己申告表をスコアで示し行われました。この方の場合、66ポイントから超越瞑想を4日間続けた後、9ポイントへと激減した例です。通常平均スコアで30ポイントが最も大きい数字です。

 

 

⑮表3はカテゴリー変数周期結果(兆候レーティングカテゴリー)です。グループと試行別に分けました。上記兆候カテゴリーの1と2と3は、前のチャートの心理面(不安、恐れ、怒りイライラ、無気力)などと肉体面(頭痛、腰痛、寝付きの悪さ)などで

1.「常に」又は「非常に」がまったくチェックがなかった

2.「常に」又は「非常に」が1~3個ぐらいチェックがついた

3.「常に」又は「非常に」が4以上チェックがついている

というふうにに分けました。

このようにストレス度がTM開始後わずかな期間に激減することは一般的なことでありますが、これをもう少し数字でしっかりと示そうということで吉村さんが本研究にまとめてくださいました。結果と致しまして、この4つ以上にチェックが付いている方が激減したという結果になりました。

 

今年の福岡、熊本の大雨、あるいは昨年、熊本の地震等で被災された方々のように、住民は大きなストレスを受けます。本研究は超越瞑想プログラムにより心身の状態が重度のストレスからの回復に繋がると効果があることが示されたのではないかなと思っております。

 

ご清聴ありがとうございました。