昭和43年(1968年)から始まった渥美清さん主演のTVドラマ『男はつらいよ』は私も大好きで、最終回、寅さんが奄美大島でハブに咬まれて死んでしまうまで、毎回観ていた。テレビのブラウン管がまだ丸っこい箱型のテレビの時代だった。

その後映画化されたのが1969年なので、テレビ放映は毎週連載物の短期間だったのだ。

私が17歳のころの、東京渋谷道玄坂の駅からすぐの洋品店で、ご本人の渥美清さんと偶然鉢合わせしたことがあった。

あっ、どうしようと一瞬キョロキョロっと目が泳ぐしぐさは映画の寅さんとまったく同じだったのが印象的だった。そのせいか、私の大学時代、飲み会での十八番はいつも「『男はつらいよ』だった。

「私生まれも育ちも葛飾柴又です」の語りから始まる歌詞の2番は「ドブに落ちても根のあるやつは いつかは蜂巣(ハス)の花と咲く」だ。

素晴らしく含蓄のある詩なのだが、実際にこの蓮がどれほど特別な植物であるのかを知ったのは、私が腰の治療で一年近くインドのマハリシ・ナガール(村)に滞在した時である。(1989年)主治医のドクター・ラジュ先生が、そのことを教えてくれた。

 

花果同時(ハスの花)

マハリシ先生とラジュ先生を含む幹部の方々とのミーティングが終わるのはいつも夜中1時過ぎ。そして朝の3時過ぎには村の人のために薬研(やげん)で薬を作り始める毎日を拝見していると、啓発している方の献身とはかくあるものかと、感動を覚えざるを得ない。

私はマハリシナガールに8ヶ月以上滞在させてもらったが、3か月ごとにビザの延長をしなければならず、その度毎にラジュ先生は役所まで付き添ってくれた。

ある時、先生は運転手に車を止めさせると沼のふちに降りて行き、ほどなく戻ってこられると、その手には蓮巣(ハスの実)を持っており、私に手渡した。

「これを食べなさい。これは今のあなたにとてもいい薬です。」

ハスの花は花が咲くと同時に実ができる。ジョロのような形の蓮の芯をほじると、紫色がかった緑の種が出てくる。ツルっとした楕円の種は苦渋いのだが、清々しさを伴う不思議な味で、その場で三粒ほど頂いた。

今になって調べてみると、ハスの実はタンパク質が豊富でカルシウムやリンなどミネラル成分も多く、神経への鎮静効果があり、筋肉の伸縮性や動悸の改善などの薬効を持っており、また、精神を安定させ、滋養強壮にも効果があると記されている。まさにその時の私に必要とされている効能なのであった。

マハリシは、蓮の花について「ハスは、始まりと終わり同時に存在する」と解説したことがある。天界の華とされ、3,000年前の蓮の種が発芽した記録があるほど生命力の強いハスはまさに特別中の特別な植物なのであろう。