このグラフは、2011年の日本の地震津波災害の影響を受けた2つの都市(仙台と石巻)でTMを学習する前後でストレスレベルが低下したことを示しています。 TMはまた、地震津波の影響を受けなかった東京に住む人々のストレスを減少させました。 TMを習得しなかった対照被験者の変化はありませんでした。

参照: 吉村光信、黒川悦子、野田隆行、日根野浩史、田中康雄、川井悠央、マイケル.C.ディルベック、

 2011年の日本の地震津波に対する災害救援:超越瞑想法によるストレス軽減。 心理レポート:心身の健康、1171)、1-11

 

2011年日本の地震・津波災害における被災者支援 ― 超越瞑想法1, 2, 3によるストレス緩和

 

要旨

本研究は、2011年に日本で発生した地震・津波の被害を直接受けた2市(仙台と石巻)の住民171人を対象に、

超越瞑想法の導入前後のストレス症状の変化を自己申告に基づいて調査し、

東京の実験参加者326人(震災発生以前に瞑想習得の事前・事後調査を受けていた群)

および無処置の対照群(n=68)と比較した。

参加者は心身のストレス症状を自己評価するチェックリストに記入した。

超越瞑想法を習得した被災地の参加者は対照群と異なり、

事前調査から事後調査で、ストレス症状の総合得点が有意に減少した(効果量 = -1.09)。

〔事後調査における各群の〕結果は、症状の強さを示す順序尺度において同程度になった。

本研究の発見は、災害トラウマの軽減における本手法の有用性を示唆している。

2011年3月11日の東日本大震災では地震と津波で2万人近くが死亡し、13万8千戸の建物が損壊し、2千億ドルを超える経済損失をもたらした(Ferris & Solís, 2013)。

歴史的規模の大地震の衝撃と、福島原発原子炉の事故による長期間の緊張は、被災地そして日本にとって、今日まで続く大きなストレス原因となっている。

災害の影響を受けた市の多くの住民は、災害そのものから直接的に、或いは家族を失った人のケアという精神的苦痛を通して間接的にトラウマを経験した。

1.マイケル・ディルベックの連絡先:Institute of Science, Technology and Public Policy, Maharishi University of Management, Fairfield, IA 52557 または e-mail ( mdillbeck@mum. edu ).

2.吉村光信は故人。

3.米国における役務商標登録番号:1082923, www.uspto.gov.

本研究は、震源に特に近かった2つの沿岸都市で、住民のストレスを超越瞑想プログラムにより緩和することを目指したプロジェクトの効果を検証するものである。

超越瞑想は、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーにより確立された精神上のテクニックであり、過去50年間以上、世界各国で教えられてきた。

この瞑想法は、努力することなく、精神を内なる静寂、或いは「純粋意識」と伝統的に呼ばれる静寂の状態へと落ち着かせるものだと説明されている(Maharishi Mahesh Yogi, 1967 )。

加えて、この瞑想法は身体に安らぎの中の機敏さという独特な状態をもたらし、生理機能を安定させることで、瞑想後のストレスからの回復と、より躍動的で能率的な活動に繋がると言われている(Roth, 2002)。

本研究は、この心身の状態が重度のストレスからの回復に繋がるとの仮説に基づいて進めた。

 

これまで行なわれてきた複数のメタ分析研究は、瞑想中に生じる安らぎの中の機敏さという、ストレス反応とは正反対の性質を持つ独特な生理状態の存在を支持してきた。

これは、目を閉じただけの安静状態とは有意な差があり、その効果量は呼吸数で-0.35、血中乳酸濃度で-0.39、皮膚電気反応で0.64である(Dillbeck & Orme-Johnson, 1987)。

また、数ヶ月の規則的な瞑想の後の特性不安の減少が、他の瞑想法やリラックス法と比較して顕著だった事が、-0.43という平均効果量/で示されている(Eppley, Abrams, & Shear, 1989)。

同様に、ランダム化比較試験についての最近のメタ分析研究は、特性不安の減少において、種々の積極的代替治療と比べ、超越瞑想の効果量/が-0.50であったことを示している(Orme-Johnson & Barnes, 2014)。

 

重度のストレスからの回復が、この瞑想法の規則的な実践によって得られる事が、本研究に関連する心的外傷後ストレスについての複数の研究で裏付けられている。

帰還兵を対象とした小規模なランダム化臨床実験は、心理療法を受けた群と異なり、この瞑想法が心的外傷後ストレス症状や不安、鬱、無感情、家庭問題、精神ストレスの反応性、不眠、アルコール摂取量を3ヶ月間で有意に減少させた事を明らかにした(Brooks & Scarano, 1985)。

イラク紛争の米帰還兵を対象とした予備研究もまた、心的外傷後ストレス症状、鬱、不安の減少を報告している(Rosenthal, Grosswald, Ross, & Rosenthal, 2011)。

 

同様の症状緩和が、超越瞑想法を習得したウガンダ国内の難民の間でも、対象群と異なり、瞑想法の指導から30日後と135日後(Rees, Travis, Shapiro, & Chant, 2013)、さらには10日後(Rees, Travis, Shapiro, & Chant, 2014)という短期間でも確認されている。

本研究は、自然災害後の生活に順応する過程にある個人に対するこの治療介入の効果を初めて検証したものである。日本の震災と津波を受けて開始されたプロジェクトでは、仙台市(沖合の震源地からは129km、海岸からは5km)と石巻市(仙台市の北41km)で、津波で甚大な被害を受けた海岸沿いの都市)の住民に超越瞑想法が、世界各地で教えられているのと同じ、標準化された方法で指導された。

仮説1. 被災地の実験参加者は比較群・対象群より強いストレス症状を持っていると考えられる。

仮説2. 被災地群は超越瞑想法の実践によって、対象群よりもストレス症状が緩和すると期待される。

参加者:

実験参加者は、2011年3月に発生した東日本大震災の〔震源地〕近くに住んでおり、超越瞑想を学んだ171人、比較群として、震災以前に超越瞑想を学んでおり、被災しなかった東京の326人、対象群として、超越瞑想を学んでおらず、後に調査を受けた68人である。

参加者は全員、自発的な意志により調査に参加した。被災地の住民は震災後に彼らのためと言って提供されるサービスについて警戒心を持っていたので、本研究に参加した被災地住民のほぼ全ては、家族や友人から〔この瞑想法を〕紹介された人である。

震源地近くの住民は、超越瞑想法の指導を地震の2〜5ヶ月後に仙台で受けた前期群(n=106; 男性20人、女性86人)と、地震の5〜8ヶ月後に石巻で受けた後期群(n=65; 男性16人、女性49人)に分けられる。

比較群として参加したのは、震災以前の2000〜2005年に超越瞑想を学び、その時期に習得前・習得後の調査を受けた東京地区の住民(n=326; 男性155人、女性171人)である。

対象群(n=68; 男性18人、女性50人)は2014年に日本各地で募集された、大災害の経験が無い参加者である。

この群は超越瞑想法を学ばずに、他の実験参加者と同程度の期間を置いて2度調査を受けた。

 

方法:

二都市の住民に向けて超越瞑想法が提供された。

実験参加者の募集は、既に指導を受けていた人からの個人的な紹介が大部分で、一部が宣伝によるものだった。

指導は無償で実施され、その活動費は超越瞑想法の指導を行なっている日本の組織と個人からの寄付で賄われた。

本研究の全ての実験参加者の指導は、超越瞑想を学ぶための標準化された手順に沿って行なわれた。

参加者は自宅で15〜20分間の瞑想を毎日2回するよう指導された。

 

この瞑想法の指導は全世界で標準化されており、認定された教師によって教えられている。

指導に先立って2回の説明会があり、この瞑想法についての過去の研究と、その実際の原理についての説明、そして教師による簡単な個人面接が行なわれる。

参加者はその後、連続4日間で瞑想法を学ぶ(各日約90分間)。

1日目は実際の個人指導で、続く3日間のグループ・ミーティングでは、正しい瞑想法やそのテクニックの仕組み、長期的に期待される効果などについての追加説明とともに瞑想体験をさらに繰り返す。

 

測定方法:

各参加者は超越瞑想の指導前と指導後に〔それぞれ1回ずつ〕症状のチェックリストに記入した。

この2回の調査は約6〜10日の間隔を空けて実施された。

症状チェックリストは、考えうる様々な精神的、身体的愁訴をカバーするために採用した。

参加者から回収したチェックリストの測定値を基に算出した精神測定データは結果節に示す。

ストレス症状チェックリストは精神についての12項目と身体についての12項目の計24項目から構成されたもの(Kawai, 2000)を用いた。

各項目について参加者は記入時の自身の状態を、

0:(全くない)、

1:(ごく稀にある あるいは ほとんど気にならない)、

2:(よくある あるいは 多少苦痛を感じる)、

3:(常にある あるいは かなり苦痛を感じる) の4段階評価で記入した。

精神面のチェックリストで用いた項目は、

(不安、恐れ、悲しみ、焦り、不満足感、緊張感、よくうつ傾向、集中力のなさ、怒り・いらいら、物忘れ、無気力、気分の落ち込み)であった。

身体面のチェックリスト項目は、(頭痛、からだの重さ、寝付きの悪さ、眠りの浅さ、昼間に眠くなる、首・肩の凝り、背中の痛み、腰の痛み、頭重感、目の疲れ、目の痛み、視力の低下) であった。

 

分析:

症状チェックリストの合計得点を一つの従属変数とし、介入前後の得点の変化を、事前調査得点と共変動するグループ化変数としての群・性別と合わせて共分散分析(ANCOVA)を用いて分析した。

有意な全体的な群効果が見られた場合は群間の差についての仮説を検定するために計画的多重比較を行なった。

極度のストレス反応を評価するための第二指標として、順序尺度の症状カテゴリー従属変数を作成した。

これは、各試行に於いて3(常にある あるいは かなり苦痛を感じる)と記入された症状項目の個数を合計したものである。

どの項目でも3の評価が無かった場合は症状カテゴリー1とし、1から3項目で3の評価が有った場合は症状カテゴリー2とし、4以上の項目で3の評価が有った場合は症状カテゴリー3とした。

この順序尺度の症状カテゴリー変数を、群、性別、試行を因子として順序ロジスティック回帰分析により分析した。

 

結果:

参加者から回収した症状チェックリストを元に算出した基本的精神測定値を以下に示す。

本研究の全565人の参加者について、事前調査の合計得点に占める精神と身体〔カテゴリーの回答値〕で算出したクロンバックのα信頼性係数は.75だった。

これは、精神と身体の症状〔の得点〕を一つの指標に含めることが妥当であるとの内的整合性を示している。

試行間の信頼性については、対照群(n=68)を用いることで、処置効果の交絡が無い場合の信頼性が、約1週間後にr=.79であると推定できた。

この対照群はまた、収束的妥当性の部分的テストとして、事前調査で状態-特性不安尺度〔State–Trait Anxiety Inventory (STAI) 〕にも回答している。

この尺度は本研究で用いた精神症状チェックリストと部分的に重複するものである。

症状チェックリストの精神項目の合計得点と、STAIの状態不安得点との相関係数は、これら68人の参加者においてはr=.70であった。

参加者の同等性に関して、4つの群は年齢では有意な差が無かった( F3, 561 = 1.01, p = .39;

仙台群:平均年齢 = 41.6歳, 標準偏差 = 9.8;

石巻群:平均年齢 = 43.0歳, 標準偏差 = 12.8;

東京群:平均年齢 = 40.0歳, 標準偏差 = 15.4;

対照群:平均年齢 = 41.4歳, 標準偏差 = 15.5)。

しかし、男女比においては各群は有意に異なっていた(χ2 3  = 38.00, p < .001;〈参加者〉節の数字を参照)。

以下の分析は性別に関して調整したものである。

合計症状得点:

合計症状得点については、群間に事前調査の段階で違いがあるとの仮説を検証するために、事前調査の合計症状得点について2要因の分散分析(ANOVA; 群×性別カテゴリー)を行なったところ、群効果(F3, 557 = 11.46, p < .001, ω2 = 0.05)、性別効果(F1, 557 = 10.14, p < .01, ω2 = 0.02)ともに有意であったが、これら2要因に有意な交互作用は認められなかった(F3, 557 = 1.42, p = .24)。

群の主効果については更に(性差を調整した上で)計画的多重比較を、両被災地群と対照群の間(F1, 557 = 31.08, p < .001)と、両被災地群と東京群の間(F1, 557 = 4.85, p = .03)で行なった。

被災地の両群の間には差が無かった(F1, 557 = 1.66, p = .20)。

これは仮説1と整合する結果であり、両被災地群は合計症状得点が、東京の比較群、無処置の対照群のいずれよりも有意に高く、後者の群に比べると遥かに高かった(表1の素得点平均を参照)。

事前調査の平均合計症状得点は、両被災地群が東京群より12.1%高く、対照群より45.1%高かった。性別によるグループ化の有意な主効果は、群に関わらず、男性より女性の方が合計症状得点が高かったことを示した。

素得点平均は女性が32.10(標準偏差 = 12.19)、男性が27.07(標準偏差 = 11.54)であった。

仮説2の検証のために、超越瞑想法を用いた処置の効果である事前調査から事後調査への合計症状得点の変化を2要因の共分散分析(群×性別)で分析した。

事前調査での〔群間の〕差の調整には、事前調査の合計症状得点を共変数として、得点の変化を従属変数として用いた。

共分散分析の結果、群に有意な主効果が認められたが、性別によるグループ化には主効果が無く、群と性別の交互作用も有意ではなかった。

事前調査の合計症状得点の共変数は有意だった(表2の共分散分析結果を参照)。

両被災地群が超越瞑想を始めた後の合計症状得点の変化は、共変量で調整した上で計画的多重比較した結果、有意だった(F1,

超越瞑想を習得した3群で症状の合計素得点が有意に低下したことで、これら3群の合計症状得点は、対照群の事後調査の得点を下回る水準にまで低下した。

超越瞑想を習得した3群を合わせた合計症状得点を共変量で調整すると、合計症状得点の事前調査からの低下は42.4%である。

これら3群を合わせた合計症状〔得点〕の、共変量で調整した変化の対照群に対する効果量は−1.01だった(Hedgesのg, これは母集団の効果量についての、バイアスの掛からない推定量であるCohenのdの変種である); 合算した両被災地群と対照群の比較では、効果量は g = −1.09だった(Borenstein, Hedges, Higgins, & Rothstein, 2009)。

 

症状の強さカテゴリー:

事前調査における両被災地群の合計症状得点の平均は東京の比較群より有意に高かったものの、東京の比較群の事前調査における合計症状得点も対照群より高く、被災地群よりそれほど低いものではなかった。

症状の強度で見た場合、高度に都市化した東京の比較群と被災地群をより明瞭に弁別できるかどうかを検証するため、第2の従属変数を症状チェックリストから作成した。

これは先の〈分析〉節で述べたように、各参加者が最大得点をチェックした項目の数に基づいたもので、ストレスを順序尺度で表わすカテゴリー変数であり、最も強い愁訴のあった症状の数で3カテゴリーに区分してある。

症状の強さというカテゴリー変数において、事前調査の段階で群間に差があるとの最初の仮説を検証するため、症状カテゴリー変数を従属変数とし、群と性別を予測変数として、順序ロジスティック回帰分析を行なった。

合計症状得点の連続量変数についての先の分析と同様、群(z = −4.81, p < .001)と性別(z = 3.51, p = .001)の双方に有意な効果が見られた。

性別による違いは、女性の方が男性よりカテゴリー3(4つ以上の症状で「(常にあるあるいは かなり苦痛を感じる」と記入)に区分された参加者〔の比率〕が61%多く、カテゴリー1(「(常にあるあるいは かなり苦痛を感じる)」と記入した症状なし)では34%少ないという結果に反映されている。

群効果は予想通り、被災地群の方が他の群よりもカテゴリー3と区分された参加者〔の比率〕が多く、カテゴリー1は少なかった。この結果は表3に示した。

合計ストレス症状〔得点〕を連続変数として捉えた場合のように、このカテゴリー尺度でも、東京群の平均は被災地群と対照群の間に位置していた。

計画的多重比較により群効果を更に検討すると、両被災地群は症状の強さのカテゴリー尺度の分布において違いは無かった(χ2 2 = 3.07, p = .22)が、両被災地群と東京群の間には有意な差があった(χ2 4 = 15.38, p = .004)。

カテゴリー3(「(常にある あるいは かなり苦痛を感じる)」に記入された項目が4以上)に区分された参加者の比率は事前調査の段階で、両被災地群の方が東京群よりも57.0%高く、対照群より364%高かった。

これは事前調査段階での群間の差が、合計症状得点で比較した場合より明瞭であることを示す(百分率は表3の値から計算した)。

第2の仮説である超越瞑想法による処置の効果は、症状の強さのカテゴリースコアを対象に順序ロジスティック回帰分析で検定した。

予測変数は群、性別、試行(事前調査か事後調査か)、群×試行、性別×試行とした。性別と試行の交互作用は有意ではなかったため、この因子を除外して再度このモデルを評価した。その次の最終モデルでは全ての予測変数が有意となった。

即ち、試行(z = −8.21, p < .001)、群(z = −4.92, p = .001)、性別(z = 4.40, p < .001)、そして群×試行(z = 4.20, p < .001)である。

強固な標準誤差を用いても非常に似た結果となった。性別による違いは、事前調査(前段落で述べたように、女性の方が強い症状を回答している)と同様の一般的な傾向が、両試行を合わせた場合にも現われた。

しかし、群×試行の交互作用が有意であることは、群と試行を合わせた効果が均一ではなく、それ故に意味がないことを示す(表3に列挙したカテゴリー毎の人数を参照)。

群×試行の有意な交互作用について、性別による差を調整した上で、順序ロジスティック回帰分析モデルで事前調査と事後調査との症状得点を別々に検討した結果、事前調査においては有意な群効果を示した(z = −4.81, p < .001)が、事後調査では有意ではなかった(z = 1.49, p = .137)。

事前調査における違いである、被災地群の強い症状と東京の比較群の弱さについては先に仮説1との関連で検討した。4つの群は事後調査の段階では差が無かった。

これは、処置の効果により、被災地群と東京の比較群のストレス症状の強さが緩和し、対照群と同程度の得点になるとの仮説と整合する(表3参照)。

 

考察:

合計症状得点については、事前調査の段階で両被災地群の平均値に有意な差が無かった一方、東京の比較群に対しては有意に高く、対照群に対しては更に高いという、第1の仮説と矛盾しない結果となった。

これは、処置前のストレス症状の高さが被災地群において比較的長期間持続するものであったことを示唆する。

何故なら、震災後2〜5ヶ月後に事前調査と〔瞑想の〕指導を受けた仙台群は、震災の5〜8ヶ月後に事前調査と指導を受けた石巻群と〔ストレス症状得点において〕同程度だったからである。

事前調査と事後調査の間の6〜10日間の期間後、超越瞑想法を習得したどちらの被災地群も合計症状得点が有意に減少した(性別で調整した場合)。

これは第2の仮説と整合する。

事後調査では、被災地群と比較群の症状得点の平均値に有為な差は見られなかった。

 

同様に、症状チェックリストから症状の強さカテゴリー変数を作成したことで、事前調査の段階での両被災地群は、平均得点では東京の比較群と同程度であったものの、症状の強さカテゴリーでは東京群より有意に高く、対照群に比べると更に高かったことが示された(仮説1);

最も強い症状カテゴリーに区分された〔各群の〕参加者の比率から、この変数が被災地群の高いストレスに対して高い感度を持っていることが確認された。

繰り返しになるが、超越瞑想〔の指導を受けた両被災地群と東京群の〕参加者は、最も強い症状カテゴリー〔に区分された参加者の比率〕が、事前調査の31.2%から事後調査の5.8%へと非常に顕著に低下し(表1参照)、性別による差を調整すると、被災地群と〔東京の〕比較群のカテゴリー度数に違いは無かった(仮説2)。

 

連続変数でも序数化した変数でも、事前調査において女性の方が男性より高い症状得点を示し、有意な性別効果が見られた。

日本文化では男性より女性の方が、自分が感じている問題を躊躇なく報告すると考えられる。

性差が処置効果と交互作用しなかったという事実は、ストレス症状の緩和における超越瞑想法の効果が男女ともに明確だったことを示している。

 

心身のストレス症状の急速な緩和を示すこの調査結果は、その緩和の持続性について疑問を生じさせるかもしれないが、本研究は〔調査〕期間が限られている。

超越瞑想を習得したコンゴ難民についての最近の研究では、外傷後ストレス症状が同様の短期間で緩和した(Rees, et al ., 2014)だけでなく、135日間を通して緩和状態が持続ないし更に改善したことを発見している(Rees, et al ., 2013)。

 

被災地で行なったこの予備的研究には他にも、参加者が自己選択であること、処置期間が短く、モチベーション効果の影響を排除できなかったこと、そして非標準的な症状尺度を採用したことで、研究結果の一般化が制限されることなどの欠点がある。

しかし、本研究の結果の妥当性を示唆する点として、超越瞑想法を習得した3つ全ての群でストレス症状が急速に緩和したという事実や、過去の生理学的研究が、この瞑想法のストレス減少効果について報告していること、そして本研究の結果が、難民の外傷後ストレス症状についての短期間〔調査〕の結果(Rees, et al., 2014)と整合していることが挙げられる。

 

超越瞑想の実践は、災害で苦しむ住民にも、普通の生活を送る東京の住民にも等しく、精神的、身体的症状の相当な緩和に繋がったと思われる。

これらの予備的調査結果は、災害状況における代替療法を標準的な尺度で短期的・長期的に評価する、無作為化比較対象試験計画における再現を保証するものである。

日本アーユルヴェーダ学会研究総会で発表(京都センター所長)←参考まで

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Accepted June 1, 2015.