瞑想が教育や代替医療に活用されていることを米国のCBC NEWS が報告している。
番組の後半では、映画監督のディヴィッド・リンチ監督が、超越瞑想を授業にとりいれているカリフォルニアの学校を訪問し、リンチ監督と生徒たちにインタビューを行っている。
以下は、その番組の一部である。
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日々の生活を改善したり、突然の災難で生き残るためには、冴えた頭と自制心を保つことが何よりも重要だ。
そして、それを保つ方法を知っていると考える人々が、最近ますます増えてきた。今回の特集は、モ・ロッカによるレポートである。
アラン・ロコスと彼の妻スザンナが載っていた飛行機が、東南アジアの国ミャンマーに不時着したのは、2012年のクリスマス休暇の時期だった。
「着陸するとき、私たちはかなり強く地面に打ち付けられました。
飛行機は回転し、ねじれて、私たちは振り回されました。」とロコスは語る。
「そしてすぐに飛行機のなかは、まったくの混乱状態になったのです。」
「キャビンが煙で満たされたのですか?」とロッカは尋ねた。
「ええ。煙がすぐに通路までやってきました。ジェット機の燃料が燃える、黒くて濃い、有害な煙です。スザンナがすぐに私に言いました。『もうだめ。息ができない。』と。」
アランは、なんとか妻を飛行機から脱出させることができたが、自分が逃げ出す番になったとき……
「足が何かに挟まって、そこから動けなくなったのです。
簡単に言えば、私はその時、火の中で立ち往生していました。」
しかし、たとえ炎にのみ込まれても、ロコスはうろたることはなかった。
ロッカは尋ねた。「それは瞑想していたお陰だと思いますか?」
「ええ、絶対にそうです。火に囲まれたとき、それはぞっとするほど恐ろしい状況でしたが、それと同時に冷静な感覚がありました。」
仏教の教えを実践している、経験豊かな瞑想者であるロコスは、なんとか機外に脱出することができた。
しかし、彼の体の33パーセントは火傷を負い、助かる見込みはごくわずかだった。
「私を診察したすべての医者が、同じことを言いました。『これほどひどい火傷では、命は助からないだろう』」と。
しかし、ロコスは回復した。彼は20年もの間、1日7回ずつ瞑想して、落ち着きを保つ能力を養ってきた。
それが、墜落事故の火災から生き残ることができた理由の大きな部分を占めていると彼は言う。
「もし落ち着いていなかったら、私は飛行機のなかで死んでいたでしょう」と彼は語る。
「私のすぐ後ろに座っていた人も亡くなりました。」
デヴィッド・リンチが学校の授業に参加する
長年の瞑想(集中力と静かな思考を養う行為)が、大惨事となった飛行機事故で生き残るか死ぬかの違いを生み出したという言い方をしたら、こじつけのように聞こえるかもしれない。
しかし、そうした主張は、これまでよりずっと真面目に受け入れらるようになってきた。
「そうした心の訓練によって、あなたの体が基本的に『非常事態!』『非常事態!』と叫んでいる現実を脇に置いて、何かをすることができます。
非常事態に直面しても、なんとか落ち着きを保って行動することができるのです。」とジョン・デニガ博士は話す。
彼は、ボストンのマサチューセッツにあるベンソン・ヘンリー心身医学研究所の研究責任者である。
瞑想している人々は、あまり活動的には見えないかもしれないが、彼らの脳は非常に活発に働いているという。
デニガによると、瞑想は心を落ち着かせるだけではなく、それ以上の効果があるというのだ。
そんな彼に、瞑想の効果について聞いてみた。
瞑想は、体重を減らすのに役立ちますか?
「はい。」とデニガ博士は答えた。
血圧を下げるのに役立ちますか?
「絶対的に、役立ちます。」
瞑想は、過敏性大腸症候群の助けになりますか?
「ええ。なります。」
瞑想すると、よく眠れるようになりますか?
「はい。眠れるようになります。」
瞑想は、煙草を止める助けとなりますか?
「助けになります。」
いくつかの研究は、瞑想によって細胞レベルに影響を与えることで、老化の影響を遅らせたり、神経可塑性が高まることを示している。
神経可塑性とは、脳細胞を成長させて、脳のなかに新たな接続を生み出す働きのことだ。
「これまでは、成人になると脳細胞はそれ以上成長しないと考えられてきました」とデニガ博士は述べた。
「しかし、それが本当でないことが明らかになっています。
はっきりとした調査結果の一つは、瞑想には特定の脳の領域をより厚くする効果があるということです。
そして、それは脳細胞が成長することを意味しています。」
瞑想が厳密に代替医療として認められるようになってから、ずいぶん長い年月がたっている。
ロッカは尋ねた。
「瞑想というと、オカルト的なものというイメージがありますが、私たちはそうした怪しげな領域に入り込むことなく、安全でいられるでしょうか?
「瞑想は怪しいものではない、完全に安全である、とは思っていません。」とデニガ博士は答える。
「ただ、科学が瞑想について説明しているという点では、オカルト的なものではありません。
しかし、人々が何を信じているのかという点では、世の中には、今なお『瞑想』という言葉を聞いて、ばかにする人たちがたくさんいます。」
現在、約1800万人のアメリカ人が瞑想を行っているという。
そのなかには、ジェリー・サインフェルドやクリント・イーストウッドといった誰もがよく知っている名前が含まれており、デヴィッド・リンチ監督もその一人だ。
「私は1973年7月1日に瞑想を始めました。陽がさんさんと降り注ぐ土曜の朝11時にです。」と彼は語る。
「まるで昨日のことのように覚えています。それは、とても素晴らしい日でした。それ以来、41年以上にわたって1日2回瞑想してきました。瞑想を欠かしたことは一度もありません。」
「ブルー・ベルベッド」や「マルホランド・ドライブ」といった暗い映画を作っているリンチ監督が、自分のことを「幸福なバカ」を呼んでいることを知ったら、誰もが驚くに違いない。
彼が実践しているのは、超越瞑想(TM)と呼ばれる瞑想法だ。
「瞑想すると、ストレス、トラウマ、緊張、不安、悲しみ、落ち込み、憎しみ、怒り、恐れといったものが消え始めます。」とリンチは語っている。
「それはまるで、内側に純粋な黄金が生み出されて、ゴミを掃き出すようなものです。」
リンチやTMの実践者によると、その人に与えられたマントラ(音)を繰り返すことで、彼が「ゴムでできた道化師の衣装」と呼ぶ否定性やストレスから、心を解放することができるという。
「それは息を詰まらせ、悪臭を放ち、重いものです。
しかし、資格のある教師から超越瞑想を学び、瞑想し始めると、その道化師の衣装は溶け始めます。」と彼は言う。
「そして、とても気分がよくなるのです。」
彼は瞑想について語るだけでなく、2005年には、瞑想を広めるための「意識に基づく教育と世界平和のためにデヴィッド・リンチ財団」を設立した。
その目標の一つは、学生たちに瞑想する方法を教えることだ。
実際、ロサンジェルスの学校では、学生たちがTMを行っている。
1人の男子生徒が「時々、朝起きたときに、学校に行きたくないと思うことがある」と言うと、リンチ監督は「私もそうだったよ!」と笑って答えた。
しかし、瞑想すると「学校に行きたくなる」とその生徒は言うのだ。
ロッカは数人の生徒に尋ねた。
「はじめて瞑想について聞いたとき、なんか怪しげだなと思った人はいますか?」
ベッツィ、マリア、アナはみな、「はい」と答えた。
「瞑想というと、足を組んで座るようなイメージがあったので、私たちもそうする必要があるのかと思いました。」とアナは話していた。
彼女たちは、1日2回、15分ずつ瞑想している。
「瞑想は私を助けてくれます。例えば、瞑想の後は、1日がスムーズに進むのです。」とマリアは話した。
「瞑想すると、いやなことはすべてどこかにいってしまい、肯定的な考えだけが浮かんでくるのです。瞑想は私をもっと幸せにしてくれます。自分自身の内側から幸せになるのです。あと、他の人に対しても忍耐強くなりました。」
「私が良い気分でいると、私の家族も良い気分になります」とアナは話した。
「妹とあまり喧嘩しなくなりました! 瞑想してから家に帰ると、私はよい気分でいられるからです。
気分が良い日は、私を困らせることが何も起こりません。」
校長のジェニファー・ガルシアは、超越瞑想を導入した他の43の学校と同じように、彼女の学校にもよい変化が起こっていると話している。
「子供たちは前よりも落ち着きが増して、互いに八つ当たりしなくなりました。」とガルシアは語る。
「彼らは他の人を助けたいと望み、進んでそうした行動を取ろうとしています。以前とは違ってきました。」
アラン・ロコスは、自分がもう一度、瞑想のクラスを担当できるようになるとは思いもしなかったという。
医師たちは、彼が歩けるようになるまで1年以上はかかるだろうと予想していた。
それにも関わらず、彼の命を奪ったようにみえた飛行機事故のわずか4カ月後に、彼はニューヨークで週1回の瞑想グループの指導を再開したのだ。
「もし偶然にも、瞑想が、飛行機事故から私の命を救ってくれたとしたら、それはすごいことです。」とロコスは言う。
「それが偶然ではないことを望みましょう。しかし、全員ではないとしても、瞑想している人たちのほとんどが、毎日の生活のなかで何らかの変化を感じています。それは意味のあることです。そして、私にとっては、それはまさに素晴らしいことでした。」
Source:“The quiet power of meditation” CBC NEWS